偶然同じ日に母となった二人のシングルマザーがたどる数奇な運命。家族の愛をあらたな形で描く衝撃作。

劇場情報
同日上映『ヒューマン・ボイス』
特集:Movie Walker Press/ペネロペ&ティルダが魅せる!“戦場”を生き抜く女たちがディオール、シャネルを着る!
特集:映画.com/娘は他人の子だった…では本当の“私の子”はどこに?
グランジャポン
インスティトゥト・セルバンテス
同日上映『ヒューマン・ボイス』
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最愛の娘は他人の子だった—— ペドロ・アルモドバル×ペネロペ・クルス

自らの人生を投影した前作『ペイン・アンド・グローリー』で、世界各国から絶賛されたペドロ・アルモドバル監督。待望の最新作は、ライフワークでもある母の物語に戻り、同じ日に母となった二人の女性の数奇な運命と不思議な絆、この困難な時代における生き方を描く。さらに、アルモドバル監督の中で年を重ねるごとに重要となっていった「スペイン内戦」、彼らしいアプローチで人生のドラマの中に織り込み、深く広く多様な世界観を作り上げた。
ジャニスには、アルモドバル監督のミューズ、ペネロペ・クルス。答えの出ない問いを抱え続けるジャニスの複雑な心情を見事に体現し、ヴェネツィア国際映画祭最優秀女優賞受賞をはじめ高い評価を得た。アナには、これが長編映画2作目の出演となるミレナ・スミット。アルモドバルに「偉大な新発見だ」と言わしめる恐るべき才能で、無垢なアナを繊細に生き切った。アナの母親役にアイタナ・サンチェス=ギヨン、さらにロッシ・デ・パルマも顔を出し、スクリーンに味わいを添える。
今この瞬間も世界のあちこちで戦いが続くからこそ、目の前の人を愛することの大切さを教えてくれる、アルモドバル渾身の一作。

STORY

フォトグラファーのジャニスと17歳のアナは、出産を控えて入院した病院で出会う。共に予想外の妊娠で、シングルマザーになることを決意していた二人は、同じ日に女の子を出産し、再会を誓い合って退院する。だが、ジャニスはセシリアと名付けた娘と対面した元恋人から、「自分の子供とは思えない」と告げられる。そして、ジャニスが踏み切ったDNAテストによって、セシリアが実の子ではないことが判明する。アナの娘と取り違えられたのではないかと疑ったジャニスだったが、激しい葛藤の末、この秘密を封印し、アナとの連絡を絶つことを選ぶ。それから1年後、アナと偶然に再会したジャニスは、アナの娘が亡くなったことを知らされる──。

CAST/STAFF

ペネロペ・クルス/ジャニス役

ミレナ・スミット/アナ役

イスラエル・エレハルデ/アルトゥロ役

アイタナ・サンチェス=ギヨン/テレサ役

ロッシ・デ・パルマ/エレナ役

フリエタ・セラーノ/ブリヒダ役

ペネロペ・クルスジャニス役

1974年4月28日生まれ、スペイン、マドリード出身。1992年、『ハモンハモン』で映画デビューを果たす。『美しき虜』(98)でスペイン映画芸術科学アカデミーによるゴヤ賞にて初の主演女優賞を受賞。続いてペドロ・アルモドバル監督の『オール・アバウト・マイ・マザー』(98)に出演、国内外で高く評価されたこの作品をきっかけにハリウッドへ進出。『それでも恋するバルセロナ』(09)でアカデミー賞助演女優賞を受賞し一躍人気女優となる。本作ではヴェネツィア国際映画祭最優秀女優賞をはじめ多くの映画賞に輝く。実生活では、ハビエル・バルデムと結婚し、2児の母。近年の主な出演作に、『エレジー』(08)、『パイレーツ・オブ・カリビアン 生命の泉』(11)、『ローマでアモーレ』(12)、『悪の法則』(13)、『オリエント急行殺人事件』(17)、『誰もがそれを知っている』(18)、『355』(22)など。出演したアルモドバル作品:『ライブ・フレッシュ』(97)、『オール・アバウト・マイ・マザー』(98)、『ボルベール〈帰郷〉』(06)、『抱擁のかけら』(09)、『アイム・ソー・エキサイテッド!』(13)、『ペイン・アンド・グローリー』(19)。

ミレナ・スミットアナ役

1996年10月5日生まれ、スペイン、エルチェ出身。15歳でモデルデビュー。クリスティーナ・ロタ演劇学校で演技を学び、その後、「Diagonales」「Innermost」「Chimichanga」「Adentro」など様々な短編映画に出演。2020年、初の長編映画である『Cross the Line』に出演。本作のキャスティングチームが、Instagramで存在を知り、出演をオファーする。ゴヤ賞の最優秀新人女優賞と助演女優賞にもノミネートされ高く評価された。本作が長編映画2作目となる。

イスラエル・エレハルデアルトゥロ役

1973年12月10日生まれ、スペイン、マドリード出身。舞台、テレビ、映画などスペインで活躍、舞台監督も務めている。『マジカル・ガール』(14)ではゴヤ賞新人賞にノミネートされている。主な出演作品に、『スモーク・アンド・ミラーズ 1000の顔を持つスパイ』(16)、『アマドール』(20)など。

アイタナ・サンチェス=ギヨンテレサ役

1968年11月5日生まれ、イタリア、ローマ出身。イタリア人の母親とスペイン人の父親の間に生まれる。スペインを中心に活躍中。『雲の中の散歩』ではサンセバスチャン映画祭で最優秀女優賞を受賞。2000年にはカンヌ映画祭の審査員を務める。近年は舞台を中心に活躍、2016年には権威あるヴァッレ・インクラン賞を受賞し、スペインを代表する女優のひとり。主な出演作品に、『雲の中で散歩』(95)、『ぼくは怖くない』(03)、『マシニスト』(04)など。

ロッシ・デ・パルマエレナ役

1964年9月16日生まれ、スペイン、パルマ・デ・マジョルカ出身。女優、歌手、モデルとして活躍。マドリードのカフェでアルモドバル監督に見出される。出演したアルモドバル作品は、『神経衰弱ぎりぎりの女たち』(87)、『アタメ』(89)、『キカ』(93)、『私の秘密の花』(95)、『抱擁のかけら』(09)、『ジュリエッタ』(16)。その他の主な出演作に、『マダムのおかしな晩餐会』(17)、『テリー・ギリアムのドン・キホーテ』(18)、『マーメイド・イン・パリ』(20)など。

フリエタ・セラーノブリヒダ役

1933年2月2日生まれ、スペイン・バルセロナ出身。主に映画や舞台を中心にスペインでは活躍。主な出演作に、『バチ当たり修道院の最期』(83)、『マタドール<闘牛士>炎のレクイエム』(86)、『神経衰弱ぎりぎりの女たち』(87)、『アタメ』(89)など。『ペイン・アンド・グローリー』(19)ではアントニオ・バンデラスの母親役を演じた。

ペドロ・アルモドバル 監督・脚本

PROFILE

1951年9月25日生まれ、スペイン・ラ・マンチャ出身。小説、音楽、演劇などさまざまな分野の芸術活動を繰り広げ、独学で映画作りを学んだ。『セクシリア』(82)、『バチ当たり修道院の最期』(83)、『欲望の法則』(87)、『神経衰弱ぎりぎりの女たち』(87)、『ハイヒール』(91)などで世界的に注目される。“女性賛歌3部作”の1作目にあたる『オール・アバウト・マイ・マザー』(98)でアカデミー賞外国語映画賞、カンヌ国際映画祭監督賞など数多くの賞を獲得した。続く『トーク・トゥ・ハー』(02)もアカデミー賞脚本賞に輝く。前作『ペイン・アンド・グローリー』(19)は、カンヌ国際映画賞でワールドプレミアされ、アントニオ・バンデラスが主演男優賞を受賞、さらにアカデミー賞では2部門(国際長編映画賞・主演男優賞)にノミネートされるなど、各国から絶賛され高い評価を受ける。近年はプロデューサー業などで若い才能を見出している。『A Manual for Cleaning Woman(原題)』、『Strange Way Of Life(原題)』の撮影が控えている。

FILMOGRAPHY

『PEPI, LUCI, BOM Y OTRAS CHICAS DEL MONTON PEPI, LUCI, BOM AND OTHER GIRLS LIKE MOM』(80/監督・脚本)
『セクシリア』(82/監督・脚本・出演)
『バチ当たり修道院の最期』(83/監督・脚本)
『グロリアの憂鬱/セックスとドラッグと殺人』(84/監督・脚本)
『マタドール<闘牛士>炎のレクイエム』(86/監督・脚本)
『神経衰弱ぎりぎりの女たち』(87/製作・監督・脚本)
『欲望の法則』(87/監督・脚本)
『アタメ』(89/監督・脚本)
『イン・ベッド・ウィズ・マドンナ』(91/出演)
『ハイヒール』(91/監督・脚本)
『ハイル・ミュタンテ! 電撃XX作戦』(93/製作)
『キカ』(93/監督・脚本)
『私の秘密の花』(95/監督・脚本)
『ライブ・フレッシュ』(97/監督・脚本)
『オール・アバウト・マイ・マザー』(98/監督・脚本)
『デビルズ・バックボーン』(98/製作)
『トーク・トゥ・ハー』(02/監督・脚本)
『死ぬまでにしたい10のこと』(03/製作総指揮)
『バッド・エデュケーション』(04/製作・監督・脚本)
『ボルベール〈帰郷〉』(06/監督・脚本)
『抱擁のかけら』(09/監督・脚本)
『私が、生きる肌』(11/監督・脚本)
『アイム・ソー・エキサイテッド!』(13/監督・脚本)
『人生スイッチ』(14/製作)
『エル・クラン』(15/製作)
『ジュリエッタ』(16/監督・脚本)
『永遠に僕のもの』(18/製作)
『天才たちの頭の中~世界を面白くする107のヒント~』(18/出演)
『ペイン・アンド・グローリー』(19/監督・脚本)
『ヒューマン・ボイス』(20/監督・脚本)

アルモドバル監督・脚本 短編作品『ヒューマン・ボイス』11月3日(木)公開 特別料金 800円均一

ジャン・コクトーの戯曲「人間の声」をアルモドバルが自由に翻案、自身初の英語劇に挑戦!ティルダ・スウィントンが一人芝居で魅せる30分間!

1人の女が元恋人のスーツケースの横で、ただ時が過ぎるのを待っている。スーツケースを取りに来るはずが、結局姿を現さない。傍らには、主人に捨てられたことをまだ理解していない落ち着きのない犬がいる。女は待ち続けた3日間のうち、1度しか外出をしていない。その外出先で、斧と缶入りガソリンを買ってくる。女は無力感に苛まれ、絶望を味わい、理性を失う。様々な感情を体験したところで、やっと元恋人からの電話がかかってくるが……

監督・脚本:ペドロ・アルモドバル
原作:ジャン・コクトー「人間の声」
出演:ティルダ・スウィントン アグスティン・アルモドバル ダッシュ(犬)
2020 | スペイン | 英語 | 30分 | カラー | 5.1ch | ドルビーデジタル | アメリカンビスタ
原題:THE HUMAN VOICE 字幕翻訳:松浦美奈
© El Deseo D.A. 配給・宣伝:キノフィルムズ 提供:木下グループ

ジャン・コクトー1889年-1963年

詩人、小説家、劇作家、画家、映画監督、脚本家、評論家など多彩な芸術家。
7月5日、フランス、パリ郊外メゾン=ラフィットの裕福な家庭に生まれる。9歳の時に父親がピストル自殺。次第に文学に没頭し、1909年に最初の詩集「アラディンのランプ」を自費出版する。この頃はすでに社交界でも目立つ存在となり、モンパルナスの多くの芸術家とも交流を深めていく。バレエに魅了され、ロシアバレエ団バレエ・リュスの作品を手掛ける。1929年に、わずか17日間で代表作となる『恐るべき子供たち』を書き上げる。1932年、シュルレアリスムの短編作品『詩人の血』を初監督。さらに『美女と野獣』(46)で成功を収める。カンヌ国際映画祭の審査委員長を3度務め、さらにアカデミー・フランセーズ会員にも選出。1963年10月11日、親友であったエディット・ピアフの訃報にショックを受け、その日に心臓発作を起こし、74歳で死去。

人間の声La Voix humaine

1930年に発表したジャン・コクトーの戯曲。作曲家フランシス・プーランクが音楽を付けた全一幕のオペラは、この戯曲を原作としている。電話による会話、登場人物がソプラノ1人で演じる「モノ・オペラ」。
1959年パリのオペラ・コミック座での初演では、演出と舞台美術をコクトーが担当。

ティルダ・スウィントン

1960年11月5日生まれ、イギリス、ロンドン出身。祖先はスコットランドの名家。ケンブリッジ大学を卒業後、ロイヤル・シェイクスピア・カンパニーで演劇を学び、デレク・ジャーマン監督『カラヴァッジオ』(86)で映画デビューを果たし、同監督作品の常連となる。1991年『エドワードⅡ』でヴェネツィア国際映画祭最優秀女優賞を受賞。『ザ・ビーチ』(99)でハリウッドへ進出、『ディープ・エンド』(01)でゴールデン・グローブ賞主演女優賞ノミネートされる。さらに『コンスタンティン』(05)、『ナルニア国物語/第1章:ライオンと魔女』(05)などの出演を経て、『フィクサー』(07)ではアカデミー賞助演女優賞を受賞する。主な出演作に、『オルランド』(92)、『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』(08)、『少年は残酷な弓を射る』(11)、『ムーンライズ・キングダム』(12)、『オンリー・ラヴァ―ズ・レフト・アライヴ』(13)、『スノーピアサー』(13)、『グランド・ブダペスト・ホテル』(14)、『ドクター・ストレンジ』(16)、『サスぺリア』(18)、『デッド・ドント・ダイ』(19)、『アベンジャーズ/エンドゲーム』(19)、『フレンチ・ディスパッチザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊』(20)、『MEMORIAメモリア』(21)など。公開待機作は『Three Thousand Years of Longing』(22)。

INTERVIEW with Pedro Almodóvar

原作であるコクトーの戯曲は、私にとって古くから馴染みがあり、これまでにも時折、私の他の作品にインスピレーションを与えてきた。『神経衰弱ぎりぎりの女たち』の脚本を書き始めたときに映画化も考えたが、結果的にできたものは、恋人からの電話が来ないというシナリオのとっぴな喜劇で、電話のモノローグを入れるような場所はなかった。その1年前には、『欲望の法則』 の一場面に入れた。その場面は、ある映画監督が、本作の脚色作品の1つで、出演している妹に演出を施すというものだった。その時に、主人公の神経があまりにもダメージを受けたために、自分を捨てた男と一緒に暮らしていた家を斧でめちゃくちゃにするという設定を思いついた。斧を使うというアイデアは、『欲望の法則』で思いつき、今回、登場させたというわけだ。

私は、コクトーの戯曲をできるだけ原作に忠実に脚色しようと再び机の前に座り、何十年かぶりに原作を読んだ。だが「忠実」ということ自体が私の性分ではないため、本作は、原作に「大まかに基づいている」という説明を加えている。確かにそうだからだ。女の苦悩や、欲望の法則の高い代償という本質は原作そのままにした(女には、たとえ命と引き換えても、その欲望の法則がもたらす高い代償を支払う覚悟がある)。また、主人を待ち焦がれる犬と、思い出の詰まったスーツケースも登場する。電話での会話、待っている間とその後に起こることなどそれ以外のものは、私自身の現代女性の理解に基づいて脚色した。スーツケースを取りに来るというだけの電話をするのにも何日もかけるような男を狂気に至るまで愛しているが、媚びるほど依存しきってはいないというような女性だ。彼女は、原作に登場する女性のように従順ではない。私たちの生きている時代を考慮したら、それはあり得ないのだ。

私は常にこの脚色を実験とみなしてきた。それは一つの思いつきであり、演劇においては「第四の壁」と呼ばれ、映画においては本物そっくりなセットの壁を支える木組みの裏側にあたる部分を、あらわにするというアイデアだ。この木組みは、いわばフィクショナルなものが持つ物質的なリアリティなのだ。

この女の現実は、痛みであり、孤独であり、生活の中で彼女を取り囲む闇である。私は、主人公の家が、映画撮影用のサウンドステージの中に組み立てられている物であると早い段階で示し、ティルダ・スウィントンの抜群の演技を通して、これらを全てあからさまで、胸を打ち、そして説得力のあるものにしようと努めた。また、映画的なものと舞台的なものの様子を混ぜ合わせた。例えば、彼女が恋人を待ちながらベランダに立って街を眺めている場面では、観客の目には、(スタジオの)壁しか見えず、その壁には他の撮影からの印がまだ残っている。スカイラインも、街の風景もないのだ。彼女の目に入るのは、ただ何もない殺伐とした闇の空間だけ。そうすることで、主人公の孤独感と彼女の暮らす闇を強調することができた。このように、撮影を行なったスタジオが、全ての演技の舞台となった。

英語を使用することも、私にとっては実験であった。私は、仕事をするときは完全に自由奔放になる映画監督だが、今回は、標準的な形式ではなかったため、さらに自由を感じた。自分の言語、90分という最低限の時間、セットの装置の背後にあるものを見せないように注意しなければいけないといった制限がないことは、非常に解放的だった。

かといって、全てがすんなりと噛み合ったわけではない。私の頭の中には、がんとして動かない制限が存在した。そのように自由に作られた作品も、他の作品以上に演出に厳密さを要するのだ。現実的でないもので私が見せたものは全て、主人公が孤独と疎外を体験しているということを強調することが目的だった。彼女が隔離されて生きていることを表現したかったのだ。突飛な表現の裏には、必ずドラマチックな概念が存在する。頭上からのショットでセット全体が映るとき、人形の家のような狭い空間に閉じ込められた主人公を見せたかったのだ。

冒頭のクレジットの前の部分の言葉は、オペラのプロローグを思わせる。バレンシアガの服のおかげで、そういった幻想を作り出すことに成功した。最初のシークエンスでは、高級服をきた女が待っている。彼女はまるで、物置に取り残されたマネキンのように見える。

実を言うと、私はこの実験を十分に楽しんだ。例えば、通常は非常に醜い合成用の巨大なグリーンスクリーンを、オペラの緞帳のような物に変えることは、刺激的で、楽しく、心がわくわくした。この映画に対して、室内劇で実験的な作品に対するようなアプローチをとったことで、家具、小道具、そして音楽に対する些細な偏見を忘れることができた。いくつかの家具は、私の他の映画作品にも登場したものだ。音楽でも同じことが起こった。私は、アルベルト・イグレシアスに、これまで一緒に手がけた映画作品の曲を、本作のテンポと雰囲気に合ったものに編曲するように依頼した。そして彼はまさにそれを成し遂げてくれた。いくつかの電子音楽ベースの曲を除いては、『抱擁のかけら』、『バッド・エデュケーション』、『トーク・トゥー・ハー』、『アイム・ソー・エキサイテッド!』の曲を編曲したものだ。

制作を開始する前に、すでに美学に関して多くのアイデアが浮かんでいたが、この作品はそもそも、言葉と1人の女優を中心に展開する。その言葉を私なりに脚色することは困難であったが、私の言葉に真実味と感情を持たせる優秀な女優が必要だった。(全てがより分かりやすく、自然主義的な)コクトーの作品に比べて、私の作品はより抽象的であったため、演じるのはより困難だった。それは、現実的な支えがほとんどない状態で、技巧で固められることで実現した。一貫性のあるのは女優の声のみで、観客が突然の衝撃を受けずに物語を追っていくための唯一の手引きとなる。今回ほど、真に才能のある女優を必要としたことはなかった。そして、私が夢見た特徴の全てを持った女優を見つけた。ティルダ・スウィントンだ。

本作の言語は英語で、私にとって初の英語作品である。撮影は実にのどかであったものの、英語の作品に再び挑戦する自信はない。ただ、ティルダ・スウィントンが母国語で演技をする作品を監督することは可能だと言うことは確信している。最初から最後まで彼女だけが演技をするこの短編映画は、彼女の才能の幅の広さを証明している。彼女の知性と意欲のおかげで、私の仕事ははるかにやりやすくなった。特に、彼女のとてつもない才能と、私に対する絶対的な信頼も、大きな役割を果たした。全ての映画監督がこのような気持ちになれることを夢見る。また、このような映画を制作できたこと自体が、成長の糧となる。

照明は、再びホセ・ルイス・アルカイネに任せた。彼は、スペイン映画界に残された最後の光の巨匠である。ビクトル・エリセ監督の傑作映画 『エル・スール』で活躍した伝説の撮影監督だ。多くの作品を一緒に手がけてきたアルカイネは、私の好みの彩度と鮮やかな色、そして私がテクニカラーに対して郷愁を抱いていることを、誰よりも理解しているのだ。
また、フアン・ガッティがクレジットとポスターのデザインを担当。私の家族とも言える制作会社エル・デセオの仲間たちが、ティルダ・スウィントンと共に、全てを引っ張っていってくれた。私たちが楽しんだのと同じくらい、皆さんもこの映画を楽しんでくださることを期待する。